ALT研修会
2011年11月14日
大分大学にて
僕は今大分県のALT研修会に来ている。ALT研修会というのは、ALT(公立学校で英語を教える外国人)とそのパートナーであるJTE(ジャパニーズ・ティーチャー・オブ・イングリッシュ)が国民のお金を浪費する競争のことだ。今年の競争は大分大学で行われている。今ちょうど十時だ。僕は秋の綺麗な陽射しで満たされているセミナールームで最初の選手が現れるのを待っている。隣に男なのか女なのか区別がつかない、ひどくやせている日本人が座っている。目の周りに黒いメークを塗っているので女の人だと思う。しかしメークをしているからと言って、必ずしも女の人だという訳ではない。経験で分かる。
最初の選手がステージに立つ。三十代後半と思われる日本人男性だ。では広島大学の松井教授です、と隣に立っている禿げ上がった司会者が言う。どうやら松井教授の競技種目はスピーチらしい。タイトルは、「日本語で英語を教える––効果的かどうか」だ。彼はかなり強いようだ。しかし負ける気がしない。スピーチが始まると僕はパソコンを開き、キーボードを打ちながら、何度もうんうんと頷く。そして時には発表者に目を向けてできるだけ真面目な表情を浮かべる。スピーチについてノートを取っている。ように見えるが、実は読者を笑わせるために日記を書いているのだ。これは僕の浪費し方だ。松井教授の言葉がほとんど耳に入らない。隣の男なのか女なのか区別がつかない日本人が既にこっくりこっくり居眠りしている。彼女、いや彼、いや彼女は、意外と強いかもしれない。
松井教授は自分の英語歴について話し始める。
「イギリスに行くと僕はアメリカで英語を勉強したんですねと言われるんですが、アメリカに行くとイギリスで勉強したんですねと言われます。つまり、僕の英語はメィド・イン・ジャパンです」
思わず笑ってしまう。なんだ。なかなか面白いじゃないか、松井教授。
「皆さん、広島のお好み焼きと大阪のお好み焼きの違い、分かりますか?」
なんだろう。大きさ?わからん。
「大阪では自分で作れるのですが、広島では絶対に店の人が作る」
なるほど。
「意味、分かりますか?」
いや、わからん。
「つまり広島では、プロしかお好み焼きを作らない。この研修会では、皆さんに広島のお好み焼き屋さんになって欲しいわけです」
松井教授がそういうとが周り人は「なるほど」と真面目そうに頷く。彼は浪費の達人なのだ。
国民が買ってくれた豚骨ラーメンを食べ終えて会場に戻ったら、ワークショップが始まる。ここで参加者は少人数に分かれて浪費の戦略を練る。僕のグループの司会者は、僕と同じ町に住んでいる、髪の毛がほとんどないくせに髭が半端なく濃い、二十代前半のALTだ。名前はジェームズ・スミスだ。僕は彼の授業を一度見たことがあるのだが、実に無駄だった。
「はい、では始めたいと思います。もういいですか皆さん?」
とジェームズは声を上げる。
「今日皆さんに、僕がいつも授業で使っているゲームを紹介したいと思います。名前は、『マリオカート』です」
彼はそう言ってバッグから透明なファイルを取り出す。ファイルの中にマリオカートの登場人物の絵が入っている。マリオとクッパ が見える。ヨッシーも入っているかどうか気になる。
ジェームズが後ろを向いて黒板にサーキットを書き始める。あちこちで広さが違っていて不愉快だ。
「皆さん、『マリオカート』のルールわかりますか?」
若いALTたちはみんな無言で頷く。年上のJTEたちはそっと黙り込む。
「では早速始めたいと思います。前に来て自分のキャラクターを選んでください」
と彼が言った瞬間、前列に座っている僕はさっと飛び上がってヨッシーを手に取る。
「はい、もういいですか?始めますよ。まず僕は質問をします。それを正しく答えたらさいころを振ってキャラクターを進めます。いいですか?」
JTEたちの目が泳いでいる。なんでALT研修会で「マリオカート」というゲームをしているのかさっぱりわからない。僕にもさっぱりわからない。ジェームが再び声を上げる。
「では、質問します。『羅生門』を書いた人の名前を教えてください」
JTEたちの目が光る。みんな答えがわかっている。しかし答えてもいいのかどうかは、わからない。
「芥川龍之介です!」
やっとのことで一番後ろに座っている、いかにも『羅生門』や『地獄変』が好きそうな眼鏡を掛けている男が手を上げて大きな声でそう言った。
「正解です!では前に来てさいころを振ってください」
「よし」
残念ながら、ファイナルラップで僕は赤甲羅にやられて二位になってしまった。が、こうして2日間も意味不明なスピーチを聞いたら訳の分からないゲームをやったりして、国民のお金を浪費しまくった。そう、マリオカートは負けたのだが、ALT研修会は見事に優勝した。
大分大学にて
僕は今大分県のALT研修会に来ている。ALT研修会というのは、ALT(公立学校で英語を教える外国人)とそのパートナーであるJTE(ジャパニーズ・ティーチャー・オブ・イングリッシュ)が国民のお金を浪費する競争のことだ。今年の競争は大分大学で行われている。今ちょうど十時だ。僕は秋の綺麗な陽射しで満たされているセミナールームで最初の選手が現れるのを待っている。隣に男なのか女なのか区別がつかない、ひどくやせている日本人が座っている。目の周りに黒いメークを塗っているので女の人だと思う。しかしメークをしているからと言って、必ずしも女の人だという訳ではない。経験で分かる。
最初の選手がステージに立つ。三十代後半と思われる日本人男性だ。では広島大学の松井教授です、と隣に立っている禿げ上がった司会者が言う。どうやら松井教授の競技種目はスピーチらしい。タイトルは、「日本語で英語を教える––効果的かどうか」だ。彼はかなり強いようだ。しかし負ける気がしない。スピーチが始まると僕はパソコンを開き、キーボードを打ちながら、何度もうんうんと頷く。そして時には発表者に目を向けてできるだけ真面目な表情を浮かべる。スピーチについてノートを取っている。ように見えるが、実は読者を笑わせるために日記を書いているのだ。これは僕の浪費し方だ。松井教授の言葉がほとんど耳に入らない。隣の男なのか女なのか区別がつかない日本人が既にこっくりこっくり居眠りしている。彼女、いや彼、いや彼女は、意外と強いかもしれない。
松井教授は自分の英語歴について話し始める。
「イギリスに行くと僕はアメリカで英語を勉強したんですねと言われるんですが、アメリカに行くとイギリスで勉強したんですねと言われます。つまり、僕の英語はメィド・イン・ジャパンです」
思わず笑ってしまう。なんだ。なかなか面白いじゃないか、松井教授。
「皆さん、広島のお好み焼きと大阪のお好み焼きの違い、分かりますか?」
なんだろう。大きさ?わからん。
「大阪では自分で作れるのですが、広島では絶対に店の人が作る」
なるほど。
「意味、分かりますか?」
いや、わからん。
「つまり広島では、プロしかお好み焼きを作らない。この研修会では、皆さんに広島のお好み焼き屋さんになって欲しいわけです」
松井教授がそういうとが周り人は「なるほど」と真面目そうに頷く。彼は浪費の達人なのだ。
国民が買ってくれた豚骨ラーメンを食べ終えて会場に戻ったら、ワークショップが始まる。ここで参加者は少人数に分かれて浪費の戦略を練る。僕のグループの司会者は、僕と同じ町に住んでいる、髪の毛がほとんどないくせに髭が半端なく濃い、二十代前半のALTだ。名前はジェームズ・スミスだ。僕は彼の授業を一度見たことがあるのだが、実に無駄だった。
「はい、では始めたいと思います。もういいですか皆さん?」
とジェームズは声を上げる。
「今日皆さんに、僕がいつも授業で使っているゲームを紹介したいと思います。名前は、『マリオカート』です」
彼はそう言ってバッグから透明なファイルを取り出す。ファイルの中にマリオカートの登場人物の絵が入っている。マリオとクッパ が見える。ヨッシーも入っているかどうか気になる。
ジェームズが後ろを向いて黒板にサーキットを書き始める。あちこちで広さが違っていて不愉快だ。
「皆さん、『マリオカート』のルールわかりますか?」
若いALTたちはみんな無言で頷く。年上のJTEたちはそっと黙り込む。
「では早速始めたいと思います。前に来て自分のキャラクターを選んでください」
と彼が言った瞬間、前列に座っている僕はさっと飛び上がってヨッシーを手に取る。
「はい、もういいですか?始めますよ。まず僕は質問をします。それを正しく答えたらさいころを振ってキャラクターを進めます。いいですか?」
JTEたちの目が泳いでいる。なんでALT研修会で「マリオカート」というゲームをしているのかさっぱりわからない。僕にもさっぱりわからない。ジェームが再び声を上げる。
「では、質問します。『羅生門』を書いた人の名前を教えてください」
JTEたちの目が光る。みんな答えがわかっている。しかし答えてもいいのかどうかは、わからない。
「芥川龍之介です!」
やっとのことで一番後ろに座っている、いかにも『羅生門』や『地獄変』が好きそうな眼鏡を掛けている男が手を上げて大きな声でそう言った。
「正解です!では前に来てさいころを振ってください」
「よし」
残念ながら、ファイナルラップで僕は赤甲羅にやられて二位になってしまった。が、こうして2日間も意味不明なスピーチを聞いたら訳の分からないゲームをやったりして、国民のお金を浪費しまくった。そう、マリオカートは負けたのだが、ALT研修会は見事に優勝した。
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大分大学にいて
いや、わからなん。
thank you for the comment and correction!
が、こうして2日間も意味不明なスピーチを聞いたりら訳の分からないゲームをやったりして、国民のお金を浪費しまくった。
この筆力たるや!!日本人完敗です。
フィクションだとしたら最高に笑えます。し、ノンフィクションだとしても多少の苦みはありますが笑えます。
次回作を激しく期待してます^皿^
(ALTのお給料はすごく良いらしい!と私の英会話の先生が言ってました)
ALTは月3十万円をもらいます:)
これは僕の浪費の仕方だ。
意味は,よくわかりませんが,最後の文を読んで何となく今おもいだしました。
優勝おめでとうございますwww
「という言葉が日本にはあります」の間違いです。
国民は何と寛大なんでしょうwww
確かに「国民のお金」は大切に使われなければいけませんね。。
P.S. 優勝おめでとうございます!!
隣に男なのか女なのか区別がつかない、ひどくやせた日本人が座っている。
これが僕の浪費のし方だ。
「今日は皆さんに、僕がいつも授業で使っているゲームを紹介したいと思います。
と彼が言った瞬間、前列に座っている僕はさっと飛び上がってヨッシーを手に取る。
まず僕が質問をします。
それに正しく答えたらさいころを振ってキャラクターを進めます。
ジェームズが再び声を上げる。
が、こうして2日間も意味不明なスピーチを聞いたり訳の分からないゲームをやったりして、国民のお金を浪費しまくった。
内容だけでなく、おいしい日本語を味わう楽しみがたまらなく好きです。
松井教授がそう言うと、周りの人は「なるほど」と真面目な顔で頷く。
僕のグループの司会者は、僕と同じ町に住んでいる、髪の毛がほとんどないくせに髭が半端なく濃い、二十代前半のALTだ。二十代前半なのに髪の毛がほとんどないの?ww
名前はジェームズ・スミスだ。私の弟の名前もJamesだけど、ジェームズなの?私はずっとジェームスだと思ってた(--;
では前に来てサイコロを振ってください」
Ninjaは何cc?私、Ninjaって大型しかないのかと思ってた。
目の周りに黒いメークを塗っているので女の人かもしれない。 ★「~だと思う」と意見を言っているのに、そのすぐ後に「女の人とは限らないということが経験でわかる」と続くと矛盾しているように聞こえるので、ここは「かもしれない」くらいにした方がいいと思います。
これが僕の時間のつぶし方だ。 ★ただ「浪費」というと、時間かお金をを無駄に使うという意味だけど、ここでは"to kill time"の意味で使っているように読めたので、「時間のつぶし方」としてみました。
つまり、僕の英語はメイド・イン・ジャパンです」 ★madeをカタカナで書く時は、イを小さくしないのが普通です。
名前は、ジェームズ・スミスだ。 ★スタイルの問題だけど、ここでは「~だ」が無い方がかっこよく聞こえると思います。
・・・って、どうなると優勝なの?
国民のお金を無駄に使うと優勝します!笑
彼女、いや彼、いや彼女は、意外と強いやつor人かもしれない。
思わず笑ってしまった。★文章全体が過去のことについて書かれていますが、全て現在形で書かれています。「笑ってしまう」でもokですが、「笑ってしまった」の方が物語っぽくて私にはしっくり来ます。
優勝おめでとうございます\(^o^)/
64のマリオカートならかなり強いですよ!笑
となりの方は、おかま(ニューハーフ)だったのですかね。それとも、「逆おかま」だったのですかね。
おかま;DNA的には男性であるが、しぐさや言葉使いが女っぽいヒト。
逆おかま:DNA的には女性であるが、ドライド アップ コンプリートリー トゥー ビカム ア ガイ なヒト。
道元さんの文面から、後者と見た!!
まぁどこにでもある中身の無い、不要の研修であり、それが道元さんらしく上手に表現されているなぁといつもながら感心しました。
ただラストの「ALT研修会での優勝」ってなんだ?という疑問をもちつつ、
読み終わりました。隠喩であることは分かるので、少し戻って読み直して
「たぶん、こういうことなんだろうなぁ」という理解を自分でしてみました。
私の理解力が低いのかもしれませんが、感情や状況の説明に隠喩を用いられているときに、「んっ?」となることがあります。それに対しての説明となる部分がどこかにないかを探しますが、見つけられず自分なりの理解に落ち着いてしまします。
それだとなんだかスッキリしないんですよね。状況によっては読者のそれぞれの想像にまかせるということもあるとは思いますが、今回はそうではないケースだと。。
他の方々が私と同じ疑問を持つのか分かりませんが、私としてはもう一言説明があったら嬉しいです、かね。
私の言いたいことはうまく説明できているでしょうか?
文章を書くって本当に難しいですね。ただ、感情や状況を自分なりにうまく表現できたらきっと最高でしょうね。
thank you very much for the comment! この日記はフィクションです。が、ALT研修会は実につまらないもので、本当に時間の無駄だと僕は思います。
ALT研修会は(比喩で)国民のお金と時間を浪費する競争なので、優勝するにお金と時間を浪費する必要がある。僕は時間とお金をたくさん浪費したので、優勝したのではないかと研修会が終わったら思った。と、いうふうに書いたつもりです。研修会なので、本当は「優勝」などはありませんが、それを書けば良かったんですかね?
umiさんはどうやって解釈されたんですか?
コメントありがとうございます!とても感謝します。
道元さんが最初にかかれた「国民のお金を浪費する競争」と書かれた意味をちゃんと理解していませんでした。色んな自治体が開いている研修それぞれがお金を浪費するために競争している!ということなんですね。
その研修参加者のなかでも更に時間とお金を浪費させた作者が優勝!
あってます?
私は、「くだらなく、つまらない研修をやり遂げた!」=「優勝」くらいにとらえてました。最初に「競争」という言葉を布石として書いてあったので、ここではそういう表現にしたのかなぁ、ってな感じです。
私の理解が悪いのかも、という前提で言うと
「ALT研修会というのは、ALT(公立学校で英語を教える外国人)とそのパートナーであるJTE(ジャパニーズ・ティーチャー・オブ・イングリッシュ)が国民のお金を浪費する競争のことだ」
この部分にもう一言説明があれば理解できたかも。
なんとなく読むのと、読んだうえでこうやって自分の疑問点を文字にしようとするのでは全然違いますね。なんか、すごい疲労感です。(笑
こうやって書いてみて、作家さんってすごいなって実感しました。
そういう風に解釈されたんですね。やっぱり冒頭の段落にもう少し書くべきでしたね。
本当にその通りです。いくら自分にとって分かりやすいと思っても、読者の立場から考えないとだめですね。プロの作家たちは本当に凄いと僕も思います。
コメント、ありがとうございます。これからも、是非ともよろしくお願いします。
導入部で、「自分の英語はアメリカ英語でもなくイギリス英語でもない。日本という土壌で英語を磨いたのだ」と発言した以上、それに続くものとしては、「皆さんも、大阪におけるお好み焼き造りを見習って欲しい」で締めないと支離滅裂であり、面白くも何ともないです。
即ち、英語における「プロ」と見なせるアメリカ人、イギリス人を導入部で否定しておきながら、お好み焼きは「プロ」が作らなければいけないとの結論に、論理的脈絡が何もないです。
導入部の「英語は何もアメリカ人、イギリス人そっくり同じでなくとも、職業として立派に成り立つ」から導ける帰結は、「大阪のように、プロでなくとも工夫して美味しいお好み焼きを作ればいいのだ。だから、皆さんも大阪人をせいぜい見習って、日本の英語教育に貢献してもらいたい」と話をつなげるのが、なるほどと思わせるプレゼンです。
これからも、よろしくお願いします!
もういいですか、皆さん?」
「皆さん、『マリオカート』のルールわかりますか(。)」
「はい、もういいですか。
それに正しく答えられたらサイコロを振ってキャラクターを進めます。 / カタカナ is easy to read. Too many ひらがな letters are sometimes difficult to read.
なんでALT研修会で、「マリオカート」というゲームをしているのかさっぱり分からない。
僕にもさっぱり分からない。
この文が気に入りました。読んでいて笑えました。
「皆さん、『マリオカート』のルールを知っていますか?」/「わかりますか?」でも意味は伝わりますが、この場合は「知っていますか?」という表現のほうが自然です。
そう、マリオカートには負けたのだが、ALT研修会では見事に優勝した。
夏目漱石の『吾輩は猫である』みたいな作品を書くと、センスを発揮できそうだなと思いました。
前に、「俺は巨大なサメ」という日記を書いてみました。よろしければご覧ください:http://www.dogentricks.com/サメ/