男旅
ビエンチャンを流れるメコン川に夕陽が沈んでいく。冬だからか水が澄んでいてきれい。去年の今頃は、僕は向こう岸のタイにいたなと思い出しながら、川沿いの屋台でビールを飲んでいる。バンコクにある病院でほくろを取ってもらった。その焦げた臭いを思い出すと、思わず自分の顔に触れる。
去年はタイで、今年はベトナム。そして、ハノイというカオスから逃れるためにラオス(正しくはラオ)に来た。去年は一人だったが、今年は友人のケンジと男の二人旅。そのケンジと僕は、旅行やイベントくらいでしか会わないけれど仲がよく、出発の朝からはしゃいでいた。
両腕をこすりながら駅のホームに立っていると、いつもの巨大なリュックサックを背負ったケンジがやってきた。「おいおい、なんだその格好は?」と言ってリュックを背負い直した。タイで買った100リットルのノースフェイスの偽物。意外と丈夫で何年も愛用している。
「真冬なのに半袖のバカがいる」
「うん、目の前にも一人」と僕は言い返した。「しかも短パンにそのバカでかいリュック、老けた小学生みたい」
出発前の挨拶を済ませた僕とケンジは、列に並んで成田行きを待った。他にもスーツケースなどを持っている人はいたが、僕らのような格好をしている人はさすがにいなかった。談笑しているのも僕とケンジだけ。その様子を見た僕は、刺すような寒さに震えながら、ふと思った。たとえ移動手段も目的地も同じであっても、行き方は様々だなと。
「はい、お待ち遠様」
ウェイトレスの子はラオ語で言った。たぶん。テーブルに置かれたバッファローの串焼きからは、湯気が立ち上り、香ばしい匂いが辺りに広がる。「あ?テメェやんのか?かかってこいや、コラァ!」と言わんばかりにジュージューと音を立てているが、猫舌の僕は仕方なく、屋台街を歩く観光客を眺めて時間をつぶす。通りを少し行ったところにマッサージパーラーがある。そこでケンジは今、マッサージを受けている。
早く冷めてくれないかなと串焼きをふうふうしていると、ボサボサ頭のケンジがやってきた。
「何だ、ここで待っててくれたのか」と言ってテーブルの向かいに座り、一本を取って口にくわえる。
「ホテルじゃつまんないし、少し腹減ってた」と僕は残りの3本を手で押さえて、言う。「それより、どうした?1時間のマッサージじゃなかったっけ?」
「それはね、店に入ったらマッサージ師は男しかいなくて、まあそりゃそれでいいけど、力あるしな…ってウマい、これ!」
「だろ。で?」
「うつぶせになってマッサージしてもらってたら、だんだんと手が股間の方に伸びてきて、ラオ式かなと思ったら、マッサージ師がオレのタマを揉み始めた!慌ててゴロンと仰向けに寝転がると、彼は『OK?』って手を振りながら聞いた」
「それで店を出たわけ?」
「いや、せっかくだから『ノーサンキュー、普通ので』って頼んだ。しかし、しばらくすると男はまたオレの髪をかきあげたり、指先であごをなぞったりして、ついに堪忍袋の緒が切れたのは…」
「『ついに』ですか」
必死に笑いを堪える僕を無視して、ケンジは続ける。
「…切れたのは、ヤツがオレの耳に指を入れたこと」
やっとのことで笑いが治まった時には、串焼きは冷めていた。眼鏡を外して目尻にたまった涙を拭い、ケンジの方に目を向けると、彼もビールを飲んでいる。そして、どこかの屋台で買ってきたのかサンドイッチを一口食べてから、僕に言う。
「ここのパン、やっぱうめー」
「フランスの元植民地だけあって」
「こんなにいらないから、半分あげるよ」
「おっ、ありがと…って、どうやらトラウマにはなってないようだな」
「なんねえ、なんねえ」
とケンジが言ったその時、僕らのすぐ脇を空色のポロシャツを着たぽっちゃり系のおじさんが通り過ぎた。すると、ケンジは口にサンドイッチを頬張ったまま、噛むのをやめた。それを見た僕は、後ろを振り向いてその男を目で追った。
「もしかして、あの人?」
「ああ」
「俺たちに気付いたかな?」
「気付いたよ。俺にほほ笑みかけた、今」
「完璧うちらカップルだと思われてるな」
「たぶん」
「あたしはね、不誠実な男が大嫌い」
「知ってるよ。だからアレを断ったんだよ」
「素晴らしい旅だね」
「ああ、乾杯」
去年はタイで、今年はベトナム。そして、ハノイというカオスから逃れるためにラオス(正しくはラオ)に来た。去年は一人だったが、今年は友人のケンジと男の二人旅。そのケンジと僕は、旅行やイベントくらいでしか会わないけれど仲がよく、出発の朝からはしゃいでいた。
両腕をこすりながら駅のホームに立っていると、いつもの巨大なリュックサックを背負ったケンジがやってきた。「おいおい、なんだその格好は?」と言ってリュックを背負い直した。タイで買った100リットルのノースフェイスの偽物。意外と丈夫で何年も愛用している。
「真冬なのに半袖のバカがいる」
「うん、目の前にも一人」と僕は言い返した。「しかも短パンにそのバカでかいリュック、老けた小学生みたい」
出発前の挨拶を済ませた僕とケンジは、列に並んで成田行きを待った。他にもスーツケースなどを持っている人はいたが、僕らのような格好をしている人はさすがにいなかった。談笑しているのも僕とケンジだけ。その様子を見た僕は、刺すような寒さに震えながら、ふと思った。たとえ移動手段も目的地も同じであっても、行き方は様々だなと。
「はい、お待ち遠様」
ウェイトレスの子はラオ語で言った。たぶん。テーブルに置かれたバッファローの串焼きからは、湯気が立ち上り、香ばしい匂いが辺りに広がる。「あ?テメェやんのか?かかってこいや、コラァ!」と言わんばかりにジュージューと音を立てているが、猫舌の僕は仕方なく、屋台街を歩く観光客を眺めて時間をつぶす。通りを少し行ったところにマッサージパーラーがある。そこでケンジは今、マッサージを受けている。
早く冷めてくれないかなと串焼きをふうふうしていると、ボサボサ頭のケンジがやってきた。
「何だ、ここで待っててくれたのか」と言ってテーブルの向かいに座り、一本を取って口にくわえる。
「ホテルじゃつまんないし、少し腹減ってた」と僕は残りの3本を手で押さえて、言う。「それより、どうした?1時間のマッサージじゃなかったっけ?」
「それはね、店に入ったらマッサージ師は男しかいなくて、まあそりゃそれでいいけど、力あるしな…ってウマい、これ!」
「だろ。で?」
「うつぶせになってマッサージしてもらってたら、だんだんと手が股間の方に伸びてきて、ラオ式かなと思ったら、マッサージ師がオレのタマを揉み始めた!慌ててゴロンと仰向けに寝転がると、彼は『OK?』って手を振りながら聞いた」
「それで店を出たわけ?」
「いや、せっかくだから『ノーサンキュー、普通ので』って頼んだ。しかし、しばらくすると男はまたオレの髪をかきあげたり、指先であごをなぞったりして、ついに堪忍袋の緒が切れたのは…」
「『ついに』ですか」
必死に笑いを堪える僕を無視して、ケンジは続ける。
「…切れたのは、ヤツがオレの耳に指を入れたこと」
やっとのことで笑いが治まった時には、串焼きは冷めていた。眼鏡を外して目尻にたまった涙を拭い、ケンジの方に目を向けると、彼もビールを飲んでいる。そして、どこかの屋台で買ってきたのかサンドイッチを一口食べてから、僕に言う。
「ここのパン、やっぱうめー」
「フランスの元植民地だけあって」
「こんなにいらないから、半分あげるよ」
「おっ、ありがと…って、どうやらトラウマにはなってないようだな」
「なんねえ、なんねえ」
とケンジが言ったその時、僕らのすぐ脇を空色のポロシャツを着たぽっちゃり系のおじさんが通り過ぎた。すると、ケンジは口にサンドイッチを頬張ったまま、噛むのをやめた。それを見た僕は、後ろを振り向いてその男を目で追った。
「もしかして、あの人?」
「ああ」
「俺たちに気付いたかな?」
「気付いたよ。俺にほほ笑みかけた、今」
「完璧うちらカップルだと思われてるな」
「たぶん」
「あたしはね、不誠実な男が大嫌い」
「知ってるよ。だからアレを断ったんだよ」
「素晴らしい旅だね」
「ああ、乾杯」
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その焦げた臭いを思い出して、思わず自分の顔に触れる。
そのケンジと僕は、旅行やイベントくらいでしか会わないけれど、仲がよく、出発の朝からはしゃいでいた。
「おいおい、なんだその格好は?」と言って(彼は)リュックを背負い直した。(これを言ったのはケンジさん?ですよね。)
「はい、お待ち遠様」(ここから急にラオスに瞬間移動^^するのがいいですね。)
私はハノイやラオスは行った事がないのですが、何か怪しい感じ^^と同時に生き生きとしたエネルギーがあふれてるのを感じます。串焼きのジュージューいう音が「てめえやんのか、かかってこいや、コラァ!」って風に思えるんだもの!^^やっぱ、ちがうなあ。。。
両腕を*こすり(or *擦{さす}り)ながら駅のホームに立っていると、いつもの巨大なリュックサックを背負ったケンジがやってきた。 ※元のままでもokです
出発前の挨拶を済ませた僕とケンジは、列に並んで成田行き(の列車)を待った。
かかってこいや、コラァ!」と言わんばかりにジュージューと音を立てているが、猫舌の僕は仕方なく、屋台街を歩く観光客を眺めて時間をつぶす。 ※最初の「僕」に合わせました。でもyingさんは最近「私」もよく使ってますよね^^
「ホテルじゃつまんないし、少し腹減ってたから」と僕は残りの3本を手で押さえて、言う。
「ああ、店に入ったらマッサージ師は男しかいなくて。まあそりゃそれでいいけど、(男のほうが)力あるしな…ってウマい、これ!」 ※提案です。好みの言い方に変えただけなので元のままで大丈夫!
「で、うつぶせになってマッサージしてもらってたら、だんだんと手が股間の方に伸びてきて、(最初は)ラオ式かなと思ってたら、(そのうち)マッサージ師がオレのタマを揉み始めたんだ!
必死に笑いを堪える僕を無視して、ケンジは続ける。
(1GETならず!笑)
読んだだけでちょっと旅行した気分になりました。
本当に、素晴らしい旅でしたね(^~^*)
☆添削はほとんど私の好みで手を加えただけなので、もしも気に入った部分があれば軽く参考になさってください。
しばらく文章を書かないと、一人称の統一も出来なくなります(;д;)
寒いし(;д;)
添削ありがとうござおいます(;▽;)
』って手を振りながら聞いてきた」
しかし、しばらくすると男はまたオレの髪をかきあげたり、指先であごをなぞったりして、・・・ついに堪忍袋の緒が切れた…」
「オレの耳に指を入れやがった」
おもしろかった!
「何だ、ここで待っててくれたのか」と言ってテーブルの向かいに座り、一本を取って口にくわえる。
「ホテルじゃつまんないし、少し腹減ってた」と僕は残りの三本を手で押さえて、言う。
「それがさぁ、店に入ったらマッサージ師は男しかいなくて、まあそりゃそれでいいけど、力あるしな…ってウマい、これ!」
とケンジが言ったその時、僕らのすぐ脇を空色(水色)のポロシャツを着たぽっちゃり系のおじさんが通り過ぎた。
こんにちは〜今回も楽しく読ませて頂きました。^^
ベトナムには行った事ありませんが、タイには毎年のように行きます。
タイに住んでいる友人が、洪水の影響でか、水かさが増え色々ゴミなどが流されたからか、川のニオイが気にならなくなったと言っていました。。^^;
日本の一流企業がどれだけ東南アジアに頼っているか、今回の旅行で改めて思い知らされました。ハノイから少し離れたところにあるCANONの工場ってびっくりするほど広かったし、洪水の影響でFujifilmで働いている友達は仕事ができないそうです。
その焦げた臭いを思い出して、思わず自分の顔に触れてみる。
相変わらず素晴らしい文章で楽しませてもらいました。
添削はしなくてもいいくらいだけど
なんとなく、こっちの方がいいかな~と。(^^)
いいね~、豪快で♪
そうそう、「あ?テメェやんのか?かかってこいや、コラァ!」で、ザブングルを思い出した。
久しぶりに拝読しましたが、「やっぱりyingさんらしいなぁ」となんだか嬉しくなりました。次回作が今から楽しみです。^ ^
談笑して(しゃべって)いるのも僕とケンジだけ。友達どおしが会ってしゃべるのを「談笑する」とは、一般的には言わないと思います。ちょっと表現が硬いので。
たとえ移動手段も目的地も同じであっても、行き方(行く目的)は様々だなと。行き方というと、移動手段とか、どこを経由して行くかとか、そういう意味になります。
「それはがね、店に入ったらマッサージ師は男しかいなくて、まあそりゃそれでいいけど、力あるしな…ってウマい、これ!」
ケンジさんにはお気の毒だけど、普通のマッサージなら、yingさんのネタにもならなかったしね。
今年もyingさんにとって、いい年になりますように!
おまけに、パンがおいしいなんて、素晴らしいっっ! フランス流のパン、大好きなんです。
お二人の愛が益々深まり、今年も面白いハプニングがありますようお祈りしています!
ラオスの料理はいちどだけ食べたことがありますが、とてもおいしかったです。
ベトナム料理もおいしいですね。ベトナム料理店を見かけるといつも入りたくなります。ラオス料理店があったら行ってみたいです。本当は現地で食べられたら最高なんですが ^^
yingさんのコメントにもあったように、以前は遠かった国・ベトナムも身近に感じられるようになりました。"made in Vietnam"と表示された製品をよく見かけます。