手加減
「おっ、英語話せるんすか。なら話が早い。I'd like to talk to you about…」
「いや、あの、それが」
「…the changes that have recently been made to the gym area and the complete lack of…」
「あの、すみません。日本語でお願いします」
「ん?あっ、はい」と僕は言って、手の中にある名刺をもう一度見る。「これ、表も裏も全部英語だから出来るんじゃないかと。『Supervising Coordinator/Director』ってね」
会社の取締役に対する口のきき方ではない。名刺も座ったまま受け取った。片手で。黒系のシンプルな名刺。名前は全部小文字で「otsuka takahiro」となっている。
otsukaさんが何も言わないので、僕は続ける。
「本日はお忙しいところ時間を取っていただき,ありがとうございます」
僕はotsukaさんから目を離さずに小さく、ゆっくりと頷く。そして、ロビーのテーブルに肘をついて手を組む。黒い重厚なオークのテーブル。座るのは入会した時以来。
「では、早速ですが、お願いしたいことがあります。それは会費についてです。マシン、半分以上減らしたね。料金をその分下げて欲しい」
敬語とタメ口がごちゃごちゃになっている。でもotsukaさんが顔をしかめているのはそのせいではないだろう。otsukaさんは困ったように腰に手を当てて首を傾げ、歯の隙間から息を吸う。日本でしか通じないボディランゲージだし、「スー」とは、返答にも何もなっていない。
「Mr. Otsuka?」
「…判りました。ying様のご意見を参考に、今後検討…」
「コンゴすか?今さら検討はないでしょう?スタジオの工事はもう始まってるし、何の告知もなくジムエリアを縮小してマシンを処分した。しかも抗議されないように休館日を使って。汚いぞ」
「会員の皆様に、よりご満足いただけるスポーツクラブを目指してホットヨガを…」
「私のベンチは90キロだ。スクワットは120キロあたり。ヨガするような人間に見えますか?」
otsukaさんは首を横に振る。
「私みたいな会員にどうしろというんです?ありがたく料金を支払えとでも?」
会社の取締役に対する口のきき方ではない。どちらかというと小さな子供を叱るみたいな話し方。ほら、後先を考えないからこうなるのよ、taっくん…
と思っていると、ジムでよく見かけるボディビルダーのおじさんが僕の後ろを通り過ぎた。つかつかと受付まで歩み寄った彼は、何をするかと思えば、腕でカウンターの上のものを払いのける。その音を聞いて、奥から受付の子が出てきた。今年成人式を迎えた小峰さん。ユニフォームのシャツをオフショルダーで着こなす彼女はいつもニコニコして、明るい笑顔で迎えてくれる。yingさん、痩せましたか?ニット帽、似合ってますよ。来月はジャズダンスの発表会がありますので、見に来てくださいね、とか。
「退会申請書持って来いっつってんだよ、ボケ!」とカウンターを叩きながら怒鳴るおじさん。
唖然とした表情でそれを見るotsukaさん。
そして、涙しながら頭を下げる小峰さん。
テーブルからすっと立ち上がってそのおじさんをボコボコにしたい気持ちを抑え、僕はotsukaさんに向かって言う。
「去年からお世話になっている小峰ゆりこさんです。ものすげえいい人だ。何も悪いことしてない彼女は今、otsukaさんたちがやったことの責任を取らされてます。私がどうこう言う立場ではありませんが、後で彼女に…スタッフのみんなに謝った方がいいかもしれません。Supervising Coordinator/Directorとして」
otsukaさんはしばらくカウンターの方を見つめてから、言う。
「料金についてですが、再検討致しますので一週間いただけないでしょうか?」
「One week」と僕は繰り返す。そして、立ち上がりながらテーブル越しに右手を差し出し、otsukaさんの握手の力に応じて、握り返す。
「いや、あの、それが」
「…the changes that have recently been made to the gym area and the complete lack of…」
「あの、すみません。日本語でお願いします」
「ん?あっ、はい」と僕は言って、手の中にある名刺をもう一度見る。「これ、表も裏も全部英語だから出来るんじゃないかと。『Supervising Coordinator/Director』ってね」
会社の取締役に対する口のきき方ではない。名刺も座ったまま受け取った。片手で。黒系のシンプルな名刺。名前は全部小文字で「otsuka takahiro」となっている。
otsukaさんが何も言わないので、僕は続ける。
「本日はお忙しいところ時間を取っていただき,ありがとうございます」
僕はotsukaさんから目を離さずに小さく、ゆっくりと頷く。そして、ロビーのテーブルに肘をついて手を組む。黒い重厚なオークのテーブル。座るのは入会した時以来。
「では、早速ですが、お願いしたいことがあります。それは会費についてです。マシン、半分以上減らしたね。料金をその分下げて欲しい」
敬語とタメ口がごちゃごちゃになっている。でもotsukaさんが顔をしかめているのはそのせいではないだろう。otsukaさんは困ったように腰に手を当てて首を傾げ、歯の隙間から息を吸う。日本でしか通じないボディランゲージだし、「スー」とは、返答にも何もなっていない。
「Mr. Otsuka?」
「…判りました。ying様のご意見を参考に、今後検討…」
「コンゴすか?今さら検討はないでしょう?スタジオの工事はもう始まってるし、何の告知もなくジムエリアを縮小してマシンを処分した。しかも抗議されないように休館日を使って。汚いぞ」
「会員の皆様に、よりご満足いただけるスポーツクラブを目指してホットヨガを…」
「私のベンチは90キロだ。スクワットは120キロあたり。ヨガするような人間に見えますか?」
otsukaさんは首を横に振る。
「私みたいな会員にどうしろというんです?ありがたく料金を支払えとでも?」
会社の取締役に対する口のきき方ではない。どちらかというと小さな子供を叱るみたいな話し方。ほら、後先を考えないからこうなるのよ、taっくん…
と思っていると、ジムでよく見かけるボディビルダーのおじさんが僕の後ろを通り過ぎた。つかつかと受付まで歩み寄った彼は、何をするかと思えば、腕でカウンターの上のものを払いのける。その音を聞いて、奥から受付の子が出てきた。今年成人式を迎えた小峰さん。ユニフォームのシャツをオフショルダーで着こなす彼女はいつもニコニコして、明るい笑顔で迎えてくれる。yingさん、痩せましたか?ニット帽、似合ってますよ。来月はジャズダンスの発表会がありますので、見に来てくださいね、とか。
「退会申請書持って来いっつってんだよ、ボケ!」とカウンターを叩きながら怒鳴るおじさん。
唖然とした表情でそれを見るotsukaさん。
そして、涙しながら頭を下げる小峰さん。
テーブルからすっと立ち上がってそのおじさんをボコボコにしたい気持ちを抑え、僕はotsukaさんに向かって言う。
「去年からお世話になっている小峰ゆりこさんです。ものすげえいい人だ。何も悪いことしてない彼女は今、otsukaさんたちがやったことの責任を取らされてます。私がどうこう言う立場ではありませんが、後で彼女に…スタッフのみんなに謝った方がいいかもしれません。Supervising Coordinator/Directorとして」
otsukaさんはしばらくカウンターの方を見つめてから、言う。
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日本語は完璧すぎて何だか逆に話の表現方法を習いたくなりました。
怒りがおさまらないから日本語でも書いてしまったって感じでしょうか。
それにしても、筋肉鍛えていると、血の気が多くなってくるのでしょうか・・・yingさんといい、ジムでよく見かけるボディビルダーのおじさんといい・・・。
yingさんがテーブルに肘をついて手を組んでこんこんとクレームをつける様子を想像するのは、なかなか怖いものがあります。
でも、ホントはyingさんの声って、繊細でやさしいんだぞっ^^。
納得のいかないことに、泣き寝入りせず、言うべきことを言う。しかも冷静に。
大事ですよね、ホントに。
この姿勢は、見習いたいです。
クリリンのことかーーーーっ!!!
上が決めたことでも、クレームは現場のスタッフなのですよね。><
1週後の報告楽しみにしています。
え~~っと、
幸いにも、私はお金の掛からない公園ジョギングを始めたので、そんなトラブルは皆無です。
この俺様がホットヨガだと? 爆
でもね、小峰さん、そんなことで泣いちゃだめですよ。どなり散らす人はどこにでもいます、がんばって。^_^
ここだけの秘密ですが、ヨガは一度やってみたいです。ただ、おばさんばかりだし、この俺様は柔軟性がないんです。
さすがyingさん、ジェントルマンです♪(^ω^)
それにしても、あの、歯の隙間から息を吸う謎のジェスチャァは何なのでしょうね。
日本人男性だけなのかな?あれを聞くたびに情けな~い気分になります・・・(・ω・`)
コミュニケーションミスが生じちゃいそうです。日本人のビジネスマンが不安を表明しているのに、下痢を我慢しているように見えたりして(・_・;)
名刺も座ったまま片手で受け取った。 原文はそのままで、一行下↓
片手で。orそれも片手で。
ははは、私、漢字が読めないのすらありました^_^;
少し訂正をしましたが、原文でもOKです。
この続き、楽しみにしていますね。
ジム通いしてみたい!!
目指せゴリマッチョなのです。
胸囲は測ったことないけど、UNIQLOのXLでもちょっときついくらいです。
つーかでかいな(笑)
会社の取締役に対する口の利き方ではない。
(しかも)片手で。
「本日はお忙しいところ時間を取っていただき、ありがとうございます」
手加減無しで添削しようとしても、間違いが見つかりません!^^
完璧です!
その場の情景が目に浮かぶようでした。素晴らしい。
唇カサカサでひび割れそう(・*・)
とてもキスできる状態ではありません。もし、松嶋菜々子が目の前に現れたらとか(・艸・)
添削ありがとうございます。
ちなみに、私は筋トレはあまりやらないのでヒョロいままです。
僕はotsukaさんから目を離さずに小さく、ゆっくりと頷く。 【「本日は・・・」はyingさんの台詞ですよね?自分が言ったことに自分で頷いたんですか?】
otsukaさんは困ったように腰に手を当てて首をかしげ傾げ、歯の隙間から息を吸う。 【「傾げ(かしげ)」はほとんど漢字で書くことはないと思います。「傾け」の間違いかと思ってしまいました。】
続きが楽しみです。
僕はotsukaさんから目を離さずにゆっくりと、ほんの少しだけ頭を下げる。私もneginohahaさんと同じく、この文で少し読むのを止め、二行前の「僕は続ける」に戻り、yingさんの台詞であることを確認する必要がありました。「頷く」は、相手の言ったことに対して、同意を示すときによく使われます。
taっくんも笑えます。
小峰さん、そんなことで泣いてちゃだめ、「taっくーーーん、help!」って叫ぶのよ。
添削ありがとうございます。
黒系のシンプルな名刺。「黒系」がどんな名刺を指すのか確信が持てませんでした。想像したのは「白地に黒文字の(よくある)名刺」です。合ってますか? それとも、「黒地に白文字の名刺」でしょうか? 黒字に白文字のシンプルな名刺だと、かなり洒落た印象を受けます。(その場合、おしゃれな英文名刺の格好良さと、実際の英語力のなさの落差で、一層oysukaさんのダメなキャラクターが引き立ちますね (笑)
ラストの「otsukaさんの握手の力に応じて、握り返す。」というのが特にイイです。
しっかり握るのが握手のマナーと聞きましたが、しっかり握るとotsukaさんはびびってしまいそうです。おそらくotsukaさんは弱弱しい力だったのだろうと想像される書き方がとてもうまいですね! そんなotsukaさんの心境に配慮して、同じくらいの力で握手を返したyingさんの気の利かせ方が、良い読後感を与えてくれました。
ヨガもいいもんですよ(笑)
残念ながら、このスタイルの名刺の固有名詞は私もわかりませんでした。
一週間後が気になります。^^
黒系のシンプルな名刺。白地に黒で文字を印刷しただけのシンプルな名刺。
何も悪いことしてない彼女は今、otsukaさんたちがやったことの責任を取らされてます。彼女は何も悪いことしていないのに、otsukaさんたちがやったことで、毎日責められているんですよ。(彼女が責任を取っているということはないと思います。)
気に入らないからやめようと思うことはあっても、その分料金を下げてほしいとは、なかなか言えません。yingさんの交渉の結果、どうなったのでしょうかね。
迷惑かけられているからこそ、やめない!やめたら負けだ!という気持ちですね。訴訟社会アメリカで育ったからかな。とりあえずクレームだよ、クレーム!