素直さ③
洗面所の鏡に付けた歯ブラシホルダー。鏡の中の歯ブラシも合わせれば、四本ある。青とピンク二本ずつ。
歯を磨きながら、目を凝らして鏡の中を見つめる。彼女がなぜ僕のことを好きになってくれたのか、その答えが顔に書いてあるかのように。しかし、どこにもない。それに、もう一本のピンク色の歯ブラシにどうしても目が行ってしまい、彼女のびっくりした顔が頭にちらつく。
「何これ!」と彼女はそのピンク色の歯ブラシを手に、シャワーカーテンから顔を覗かせて尋ねた。いつも手首につけている黒いヘアゴムで髪を結んでいた。彼女のポニーテール姿を見るのは初めてだった。
「イッツ・ア・トゥースブラシ」と僕は半透明のシャワーカーテンに見とれながら言った。
「でかくない?」
「そうかな。アメリカで買ったんだ」
「何磨くの?」
「歯だよ、歯」
「ふーん」
「いいから、使って」
そこに置いとくからいつでもどうぞ。
しかし、思い出に浸っている場合ではない。今夜のライブは、デイヴとユキに何と言うか考えなければならない。口をゆすいで歯ブラシを洗い、それをピンク色の歯ブラシの隣にかける。風呂釜のスイッチをひねると、ボッと火のつく音が聞こえる。ベルヌの小説に出てきそうな古い風呂釜だ。ちょっとしたスチームパンク感覚で好き。
初デートはデイヴのライブだった。彼の奥さんもいて、「彼の部屋はね、もうね、すんごくキレイ」とか、「夫によると、毎晩ギター練習してますし、真面目な人なんだよ」などと、曲と曲の間に僕のことをよく言ってくれた。緊張して何も話せない僕は、ただ二人の横で照れていただけだった。そんなどうしようもない僕のことを彼女が好きになってくれたのは、デイヴの素晴らしい演奏とユキのべた褒めのおかげではないかと、温かいお湯に打たれながら思う。
あれから冬が過ぎ、春を迎えた。一組の手袋を片方ずつして、もう片方の手をつないで過ごした日々だった。春が来なくてもいいとさえ思うほど、小さく冷たい彼女の手を温めるのが好きだった。それでも春が来た。デートの予定を考えたり、思わせぶりな日記を書いたりしていて、ふと気がつくと桜が咲いていた。
新学期で忙しかった四月。きっと彼女も年度初めで忙しいんだろうと思って、花見の誘いの返信がないのも気に留めなかった。桜が散って新緑になっても、素直に連絡を待っている僕だった。そして、「まだ仕事忙しい?デイヴが来月ライブをやるので行こうよ」というメールの返事は、今朝目が覚めたら届いていた。内容は二行だけ。
シンガポールで就職します。
ごめんなさい。
排水口から水の流れる音が風呂場に虚しく響き渡る。とっくに散っているはずの桜が、ここではまだ一本咲いている。曇った鏡を手で拭き、もう一度鏡の中の自分と見つめ合う。自分が作り笑いを浮かべると、彼も真似をしてくれる。全く、素直な奴だ。
とりあえず、デイヴとユキの前では凹んだ姿を見せない。心配されたくないし、同情を買いたくもない。後で日記でも書いて気持ちの整理をするから、今夜は素直に楽しもう。
歯を磨きながら、目を凝らして鏡の中を見つめる。彼女がなぜ僕のことを好きになってくれたのか、その答えが顔に書いてあるかのように。しかし、どこにもない。それに、もう一本のピンク色の歯ブラシにどうしても目が行ってしまい、彼女のびっくりした顔が頭にちらつく。
「何これ!」と彼女はそのピンク色の歯ブラシを手に、シャワーカーテンから顔を覗かせて尋ねた。いつも手首につけている黒いヘアゴムで髪を結んでいた。彼女のポニーテール姿を見るのは初めてだった。
「イッツ・ア・トゥースブラシ」と僕は半透明のシャワーカーテンに見とれながら言った。
「でかくない?」
「そうかな。アメリカで買ったんだ」
「何磨くの?」
「歯だよ、歯」
「ふーん」
「いいから、使って」
そこに置いとくからいつでもどうぞ。
しかし、思い出に浸っている場合ではない。今夜のライブは、デイヴとユキに何と言うか考えなければならない。口をゆすいで歯ブラシを洗い、それをピンク色の歯ブラシの隣にかける。風呂釜のスイッチをひねると、ボッと火のつく音が聞こえる。ベルヌの小説に出てきそうな古い風呂釜だ。ちょっとしたスチームパンク感覚で好き。
初デートはデイヴのライブだった。彼の奥さんもいて、「彼の部屋はね、もうね、すんごくキレイ」とか、「夫によると、毎晩ギター練習してますし、真面目な人なんだよ」などと、曲と曲の間に僕のことをよく言ってくれた。緊張して何も話せない僕は、ただ二人の横で照れていただけだった。そんなどうしようもない僕のことを彼女が好きになってくれたのは、デイヴの素晴らしい演奏とユキのべた褒めのおかげではないかと、温かいお湯に打たれながら思う。
あれから冬が過ぎ、春を迎えた。一組の手袋を片方ずつして、もう片方の手をつないで過ごした日々だった。春が来なくてもいいとさえ思うほど、小さく冷たい彼女の手を温めるのが好きだった。それでも春が来た。デートの予定を考えたり、思わせぶりな日記を書いたりしていて、ふと気がつくと桜が咲いていた。
新学期で忙しかった四月。きっと彼女も年度初めで忙しいんだろうと思って、花見の誘いの返信がないのも気に留めなかった。桜が散って新緑になっても、素直に連絡を待っている僕だった。そして、「まだ仕事忙しい?デイヴが来月ライブをやるので行こうよ」というメールの返事は、今朝目が覚めたら届いていた。内容は二行だけ。
シンガポールで就職します。
ごめんなさい。
排水口から水の流れる音が風呂場に虚しく響き渡る。とっくに散っているはずの桜が、ここではまだ一本咲いている。曇った鏡を手で拭き、もう一度鏡の中の自分と見つめ合う。自分が作り笑いを浮かべると、彼も真似をしてくれる。全く、素直な奴だ。
とりあえず、デイヴとユキの前では凹んだ姿を見せない。心配されたくないし、同情を買いたくもない。後で日記でも書いて気持ちの整理をするから、今夜は素直に楽しもう。
- 83
- 25
- 14
Journals Statistics
| Total | 51 entries |
|---|---|
| This Month | 0 entries |
| This week | 0 enrties |
Latest entry
| 心のつかみ方 (39) |
| カエル探し (46) |
| 語感 (34) |
| 青春 (42) |
| アイドル (35) |
Latest comments
| May 26th paco |
| May 25th Ari |
| May 24th jaken |
| May 24th russel |
| May 24th keiko |
Entries by Month
| 2012 |
|---|
| - May (2) |
| - April (1) |
| - March (2) |
| - February (1) |
| - January (2) |
| 2011 |
| - December (3) |
| - November (1) |
| - October (2) |
| - September (2) |
| - August (1) |
| - June (2) |
| - May (2) |
| - April (2) |
| - March (3) |
| - February (1) |
| - January (2) |
| 2010 |
| - December (2) |
| - November (1) |
| - October (2) |
| - September (2) |
| - August (1) |
| - July (1) |
| - June (1) |
| - May (1) |
| - April (1) |
| - March (3) |
| - February (1) |
| 2009 |
| - November (2) |
| - October (3) |
| - May (1) |

湯沸かし器のスイッチを入れると、ボッと火のつく音が聞こえる。(ボッと火のつく音ってあるので、湯沸かし器の方がよいかと思います。)
この夏もっと素敵な彼女が現れるよ、きっと♪
ライブ楽しんできて下さい(^^♪
桜が散って新緑になっても、何も知らずに連絡を待っている僕だった。suggestion
心配されたくないし、同情を買いたくもない。or 同情されたくもない
素敵な人に巡り合えるといいですね。
ところでシャワーカーテンを日本でも使うの?
私の部屋はユニットバスです。日本でも使います!ただ、値段は高いし、品揃えも少ない。さすがお風呂の国です。添削ありがとうございます。
鏡(扉)の中の(内側にある)歯ブラシも合わせれば、四本ある。
それに、もう一本のピンク色の歯ブラシにどうしても目が行ってしまい、彼女のびっくりした顔が頭(脳裏)にちらつく。
「そこに置いとくからいつでもどうぞ」
今夜のライブで、デイヴとユキに何を言うか考えなければならない。
リアルな情景描写でシャワーの湯気まで想像してしまいました。笑
まだ続きがありますか?
妄想癖のある私の中ではyingさんのエントリーはドラマになりつつありますよ。BGMつき。笑
給湯器のスイッチを入れると、ボッと火のつく音が聞こえる。
古くて、ヴァーンの小説に出てきそうな給湯器だ。
彼の奥さんもいて、「彼の部屋はね、もうね、すんごくキレイ」とか、「夫によると、毎晩ギター練習してますし、真面目な人なんだよ」などと、曲と曲の間に僕のことをよく言ってくれた。
そんなどうしようもない僕のことを彼女が好きになってくれたのは、デイヴの素晴らしい演奏とユキのべた褒めのおかげではないかと、温かいお湯に打たれながら思う。
桜が散って新緑になっても、(ただ)素直に連絡を待ち続けている僕だった。 ※元のままでもokだと思います。
そういえば彼女は出会った日から「アジアの他の国で働いてみたい」と言ってましたよね。でも、そんな大事な話をメールで伝えるなんて…まだこれからも彼女と話す機会はあるんですよね?(´;ω;`)
給湯器、温水器、湯沸かし器の違いが分かりません。形によって名前が変わるんですか。やっぱみんなお湯好きなんですね。ふ~ん。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%B5%A6%E6%B9%AF%E5%99%A8
「温水器」と「湯沸かし器」の違いは、温水器は、屋外などに設置して家に供給するお湯を沸かすタイプで、湯沸かし器は、台所に設置して使用するタイプで、温水器より小型の製品。
私も最初は【湯沸器】と添削してみたんですけど、その後、「熱いお湯に打たれ」&「水の音が風呂場に響き渡る」という部分でシャワーのことだと思ったので【給湯器】に直しました。【湯沸器(or 瞬間湯沸かし器)】は基本的に小型でキッチンの洗い場の壁に設置するものですね。お風呂場では使いません^_^;(笑)
湯沸器
http://image.search.yahoo.co.jp/search?ei=UTF-8&fr=chr-greentree_ff&p=%E6%B9%AF%E6%B2%B8%E5%99%A8
給湯器
http://image.search.yahoo.co.jp/search?p=%E7%B5%A6%E6%B9%AF%E5%99%A8&aq=-1&oq=&ei=UTF-8
風呂釜という物もあります。
http://image.search.yahoo.co.jp/search?p=%E6%B5%B4%E5%AE%A4%E5%86%85%E9%A2%A8%E5%91%82%E9%87%9C&aq=-1&oq=&ei=UTF-8
もしかしたら、これが一番近いかも…?古いタイプのアパートだと今でも割とよく使われていると思います。(^。^)
今夜のライブは、デイヴとユキに何とを言うか考えなければならない。
そんなどうしようもない僕のことを彼女が好きになってくれたのは、デイヴの素晴らしい演奏とユキのべた褒めのおかげではないかと、温かい水お湯に打たれながら思う。
一組の手袋を片方ずつして、もう片方の手をつないで過ごした冬日々だった。【「春を迎えた」と言ったあとなので、そのままだと春の日々かと・・・】
悲しい結末ですね。
いくら仕事が忙しくても、こまめに連絡を取り合っていなくちゃ。
それにしても、彼女はなぜ相談もしてくれなかったんでしょう。
そこに置いとくからいつでもどうぞ。 (実際には言っていないけど、心の中で、「今でも置いているよ。いつ帰ってきてもいいように・・・」ってこと?)
彼の奥さんであるユキもいて、「彼の部屋はね、もうね、すんごくキレイ」とか、「夫によると、毎晩ギター練習していて(いるらしくて)、真面目な人なんだよ」などと、曲と曲の間に僕のことをよく言ってくれた。
とっくに散っているはずの桜が、ここではまだ一本咲いている。 (捨てずに残している、彼女の歯ブラシのこと?)
切ない感じでもない。
また、ばったり出会うかも知れませんねこの彼女、世界の街角で。シンガポールで仕事ってかっこよいではないですか。
また、新しい恋の話などが読めそうなので、私的にはニンマリです。
シンガポールはすごい国ですよ。平均ITリテラシーは世界一だし、みんな英語も中国語も出来るし、何よりも蚊がいない!日本にも頑張って欲しいところです。
いやいや、しかし、ここで思い出に浸っている場合ではないな。
スチームパンクと、ヴァーンの小説という日本語をここで習いました。ちなみに、ヴァーンって誰ですか?
今夜のライブで、デイヴとユキに何と言うか考えなければならない。
彼の奥さんもいて、「彼の部屋はね、もうね、すんごくキレイ」とか、「夫によると、毎晩ギターの練習してる(ような)、真面目な人なんだよ」などと、曲と曲の間に僕のことをよく言ってくれた。
そんなどうしようもない僕のことを彼女が好きになってくれたのは、デイヴの素晴らしい演奏とユキのべた褒めのおかげではないかと、温かいお湯に打たれながら(ふと)思う。
あれから冬が過ぎ、春がやって来た。 → (その後の話の展開を読むと、”迎えた” というより ”やって来た” の方が(私には)ぴったり来るような感じがしたのですが。”迎えた”というと、なんとなく "welcome" のような意味が入っているような気がするので。)
それでも春は(やって)来た。
きっと彼女も年度初めで忙しいんだろうと思い、花見の誘いに返信がないのも気に留めなかった。
桜が散って新緑になっても、ただ素直に連絡を待つ僕だった。
デイヴが来月ライブをやるので行こうよ」というメールへの返事が、今朝目が覚めたら届いていた。
排水口から流れる水の音が風呂場に虚しく響き渡る。
とりあえず、デイヴとユキの前では凹んだ姿を見せられない(or 見せたくない)。
彼女とのことは残念でしたけど、、、これからも、続きを読むのを楽しみにしています。
さて、金曜日だ(ノ・0・)ノ飲も~
今夜のライブで、デイヴとユキに何て言うか考えなければならない(考えなくてはいけない)。
ベルヌの小説に出てきそうな古い温水器だ。 *ここに置いた方がいい気がします。個人の趣味ですが。。冒頭に置くのでも、「古い」にした方がいいかも。でもそうすると小説が古いと言ってるようにも聞こえるから、冒頭に「古くて」って置いたんだと思うんですが…。ぐちゃぐちゃ言ってすみません。
彼女は夢がかなって良かったのかもしれないけれど。
会って気持ちが乱れるのを避けたかったのかもしれないし、彼女もどういっていいか分からないまま時間が経ってしまったのかもしれませんね。
ライブ楽しんできてください。
鏡の中の歯ブラシと合わせれば、四本ある。
彼女がなぜ僕のことを好きになってくれたのか、その答えを探すかのように。
それに、もう一本のピンク色の歯ブラシにどうしても目が行ってしまい、彼女のびっくりした顔がまぶたにちらつく。
あれから冬が過ぎ、春が訪れた。
春が来なくてもいいとさえ言わんばかりに、小さく冷たい彼女の手を温めるのが好きだった。
特に、「桜が散って新緑になっても、素直に連絡を待っている僕だった。」が気に入りました。
こういうのは、日本人の一流作家でもなかなか書けないね。
What a touching entry!
デイヴとユキさんの前では、ありのままのyingさんでいいのではないかなとも思いましたが、慰められたりするのがいやなのですね。
それにしても、魅力的な女性は活躍の舞台をどんどん広げていってしまう。難しいものですね、いろいろ。
洗面所の鏡に取り付けた歯ブラシホルダー。
彼女がなぜ僕のことを好きになってくれたのか、その答えが顔に出ている書いてあるかのように。
半透明なシャワーカーテンの浴室で気を許した彼女が何のプロセスもなくメールで「ごめんなさい」の一言は余りにも切なく、やるせない気持ちになります。
でも、この事実も長い人生のひとつのプロセスかもしれませんね!
今夜のライブはで、デイヴとユキに何と言うか考えなければならない。
急いで口をゆすいでぎ、歯ブラシを洗い、それをピンク色の歯ブラシの隣にかけるた。
彼の奥さんもいて、「彼の部屋はね、もうね、すんっごくキレイ」とか、「夫によるとが言うには、毎晩ギターを練習しているますし、真面目な人なんだよ」などと、曲と曲の間に僕のことを彼女によく話して言ってくれた。
このまま春が来なくてもいいとさえ思うほど、小さくて冷たい彼女の手を温めるのが好きだった。
デートの予定を考えたり、思わせぶりな日記を書いたりして過ごしているといて、ふと気がつくと気がつかないうちに桜が咲いていた。
「シンガポールで就職します。
ごめんなさい。」
俺もなんちゃらパーティー行ってみようかな?
日本人の男は需要なさそうだけど(笑)
辛い恋を忘れるには時間か新しい出会いが必要だね。
とりあえず歯医者に行って歯科助手さんに慰めてもらおうか。
バカボンに似てるとはよく言われるけど(笑)
鏡のボックスにある歯ブラシも合わせれば、四本ある。
彼女がなぜ僕のことを好きになってくれたのか、鏡の中の自分にその答えを探るかのように。
今夜のライブでは、デイヴとユキに何と言うか考えなければならない。
桜が散って新緑の季節になっても、素直に連絡を待っている僕だった。
鏡に映って、歯ブラシが4本あるように見える。 (違う解釈をされないように、鏡に映ったことで2本が4本に見えることを強調してみました。)
歯を磨きながら、目を凝らして鏡の中の自分を見つめる。
それよりも、もう一本のピンク(色)の歯ブラシが視界に入るたびに彼女のびっくりした顔が頭にちらつく。
ちょっとスチームパンクっぽいところが好き。
ぼくも独身の頃にそういう経験は何度もしてますが(笑)、
そういう時は「彼女とは縁が無かった」と思うようにしてましたよ。
きっと、もっと良い出会いのために必要な別れだったのでしょう(^^)。
ちなみにメールには何て返事したんですか?
いつもより修正多目ですが、どれも「この方がもっと自然かな?」という程度です。
参考程度に。